今月号のインタビューで技能実習生を含む外国人労働者についてお話を聞かせていただき、技能実習生や外国人労働者の中には帰国後に起業したり、日系企業で活躍したりと日本での経験を活かしたキャリアステップに成功している人たちがいることが分かった。しかし全員がキャリアステップに成功しているわけではない。成功の影には必ず失敗があり、その背景には自身のスキルやマインドセットに関係なく、必然とも呼べる形で失敗した外国人もいるのだ。
その原因の一つにあげられるのが、以前から問題視されてきた送り出し機関へ支払う費用が高額という点である。通常技能実習生は送り出し機関と呼ばれる日本語学校で日本語を勉強し、受け入れ起業の面接を受け、それに合格すると送り出し機関へ「送り出し管理費」という名目で日本円にして平均521,065円が支払われる。多くの場合、50万円という額を簡単に用意できるわけがなく、銀行や知人などから借りて支払う。その借入に対し、実習先の給料から毎月返済することになるが、昨今の円安の影響により円による返済額が増え、完済しきれない人が増えているのである。実習期間中に完済できなければ、帰国後も返済し続けなければならず、返済し続けられる給料の就職先を見つけられれば良いが、見つけられなければ担保を取られ、下手をすると住む家すら失いかねない。前述のインタビューで紹介されている成功例にインドネシア人実習生の事例が紹介されているが、そのインドネシアの平均送り出し管理費はカンボジアの半分以下であり、帰国後の成功に送り出し管理費が深く関係しているとの見方もできる。
元送り出し機関で働いていたというカンボジア人に取材をすると、「多くの実習生は日本で学んだことが帰国後に活かせるとは思っていない」のだという。これがもう一つの原因である。技能実習生が実習先を選べておらず、出稼ぎ化してしまっているのである。実習生は自分が働きたい業界があったとしても、その業界の会社からオファーがなければどうしようもなく、実習生側からオファーする術はない。そうなると実習生は、自分が働きたい業界のオファーがある送り出し機関に移るか、日本に行くことを優先し、興味のない仕事でも受け入れるかの二択になる。大半の実習生は興味のない仕事でも日本に行くことを優先する。つまり、その時点で技能を身につけようという意識ではなくなってしまっているのだ。もちろん元々興味がなかった業界でも実際に働いてみると、その魅力を知ることができ、やりがいを見つけられることもあるだろうが、それもそんなに多くはないだろう。やりたくない仕事でもそれなりの給料をもらえていれば続けるモチベーションにもなるだろうが、借金返済をしつつ家族に仕送りもしようと思うと手元にはいくらも残らない。さらに追い討ちをかけるように、米をはじめとした食料品の価格高騰で日々の生活はさらにひっ迫し、夢も希望も持つ余裕すらなくなってしまうのは当然だろう。
こうした背景によりスタート時点ですでにボタンの掛け違いがおきているのだ。個人の努力でこれらの逆境を乗り越え、成功を手にする実習生がいる一方で、不完全な制度の犠牲になっている人たちがいるのも事実である。前出のカンボジア人は、我々の「技能実習で日本で働きたいと思っている人がいたら勧めるか?」との問いに、「これから技能実習で日本に行こうと思っているのであれば“なぜ日本に行きたいのか”、“日本のことや日本での生活のことをじゅうぶん理解しているか”しっかり考えてほしい。」とイメージや想像だけで安易に日本行きを決断してしまうことがないよう注意を呼びかけた。
母国では学ぶことができない技術やノウハウを学ぶことができるのも事実であり、チャンスがあることも事実。成功の鍵は渡航前の予備知識と目的意識の差が明暗をわけることになりそうだ。