//社会発展と経済発展の両立

社会発展と経済発展の両立

 2024年10月末、茜色が夜に溶けゆく頃、約10年ぶりにカンボジアに到着した。プノンペン国際空港から市内へ向かう道中、目に飛び込むのは乱立するコンドミニアムだった。驚いたのは、これらコンドミニアムの大半が夜の帳に溶け込み、静寂に包まれていたことだ。

 2018年から2023年までの6年間に、カンボジアには約484億ドルの外国直接投資(FDI)があった。不動産セクターへの投資の公式な総投資額などのデータは無いが、短期的に見れば雇用促進、期待値で見れば外国人投資家の移住など、中長期的な経済的、社会的発展を見込んでいたのかもしれない。実際、シハヌークビルの「小さなマカオ」やプノンペンで乱立するコンドミニアムを鑑みると、GDPにおける建設業の構成比の向上に貢献していることは間違いないだろう。しかし、現状を見ると、これらの投資がカンボジアの持続可能な成長を目指したものだったのか、それとも単なる投機に留まるものだったのかと疑問が残る。

 2010年に日本を離れて以来、東南アジアの様々な国に郷に従って住んできており、いわゆる「外国人向け」環境を必要としていない。そのため、家賃もローカル食で1食1.5ドルほどの食費も安く感じる。しかし、電気代には驚いた。独自調査と計算によると、日本の平均月給に占める月間電気代の割合は約1.7%だが、カンボジアでは約4倍の7%程度と見込まれる。日本は島国という地理的要因で電力自給率が100%であることから、電力自給率と電気代の直接的な因果関係を考えてしまうが、そんなこともない。地上と海底の電力網が発達しているヨーロッパでは先進国でも電力自給率は100%ではない。日本よりも電気代の安いフランスは原子力発電比率が高く安価に電力生産出来るため、余剰電力を輸出する。一方で、原子炉の稼働停止期間が長引けば電力を輸入することもある。高い電気代は、企業の運営コストを引き上げる要因となり、家庭にとっては可処分所得を圧迫し消費活動の抑制につながる。

 2014年に町中に散乱していたゴミはほぼなくなり、定期的なゴミ回収が行われている。しかし、その裏でゴミ排出量は増加の一途を辿っている。スモーキーマウンテンとして知られるプノンペン市ドンカオ区のごみ埋め立て地は、2000年に500トンだったゴミ排出量が2020年に3,000トンになり、収容能力の限界に達している。カンダール州オンスヌール郡に新設される埋立地でカバーしようとしているが、ゴミがサスティナブルな処理無しに埋め立てているため、長期的な視点での改善が重要な課題である。

衛生と言えばもう一つ重要なのが、水である。飲食店で提供される水や水道水は飲めないし、氷も危険だ。飲料水ならばペットボトルを買えば良いが、飲めない水で手を洗う意味はあるのか。

 カンボジアの衛生状況は一定の改善が見られるものの、根本的な課題が残されている。ああ、筆者は今日も腹がユルい。

 日本への視察の道中、カンボジア視察団のあるメンバーからカンボジア国内の喫緊の課題を聞いた。持続可能な成長のためのインフラ整備である。空のハブとなり、観光資源大国としてインバウンドによる経済発展を目指すテチョ国際空港、交通網整備の一環でもある橋梁建設など視察の主目的に加え、安価かつ安定供給可能な電力生産、ゴミ処理、公衆衛生、衛生的な水の供給である。これらは、マズローの言うところ、第二段階までの安心して社会に帰属し貢献するための礎である。社会への帰属意識がさらに高まった国民と二人三脚することで、ASEANの実践的リーダー国になり得るだろう。ともすれば、国道や軽工業など経済的発展と投資リターンに対するFDIも投資家目線では重要であるが、投資対象国の熱意とベクトルを含み、長期的なカンボジアの発展を見据えた社会的発展と経済的発展が両立した、三人四脚となる投資が望ましい。