東南アジアの中でも、今静かに注目度を高めている国──それがカンボジアだ。特に首都プノンペンの不動産市場では、2024年から2025年にかけて新築コンドミニアムの供給戸数が7万戸を超え、戸建住宅の開発も20万戸に迫ろうとしている。急速な都市化とインフラ整備の進展により、街の姿は年々変わりつつある。
それに呼応するように、カンボジアの不動産利回りは依然として高水準を保っている。最新のデータでは、2025年第一四半期の全国平均コンドミニアム利回りは7.4%、プノンペン中心部でも約6.9%と、他の東南アジア諸国と比較しても魅力的な水準だ。地価の上昇を背景に、収益性の高さを求める投資家たちが次々と流入している。
その理由の一つは、通貨の安定性だ。カンボジアでは米ドルが広く流通しており、物件の売買や賃貸契約も基本的にドル建てで行われる。これは、為替リスクの小さい資産運用を好む投資家にとって大きな魅力となっている。加えて、外国人がコンドミニアム(2階以上)を100%所有できる制度も整備されており、法的な障壁も比較的低い。
2025年現在、カンボジア政府は不動産取引を後押しする税制優遇策を引き続き導入している。キャピタルゲイン税の施行延期、低価格住宅に対する印紙税の免除、未使用地への課税撤廃など、投資家にとって有利な条件が整っている。また、今年9月には新国際空港「テチョ国際空港」が開業を予定しており、その周辺地域ではすでに地価が上昇傾向にある。都市インフラの整備は資産価値の向上と直結する要素であり、中長期的に見てもポテンシャルは大きい。
現地の不動産業者に話を聞くと、賃貸需要は着実に伸びているという。ドル建ての安定収入、物件管理のアウトソーシング体制、そして近年増加する外国人居住者層の広がりが背景にある。一方で、コンドミニアムの供給過多や物件によっては空室率の高さが指摘されており、立地や価格帯、デベロッパーの信頼性といった要素を慎重に見極める必要があるのも事実だ。
実際に投資を行っている日本人投資家の声を聞くと、「ドル建てで7~8%の利回りが確保できるのは魅力的」「数年後の値上がりも期待している」といった前向きな意見がある一方、「物件選びに失敗すると長期空室リスクがある」「現地で信頼できる管理会社を見つけるのが鍵」といった慎重な見方も多い。
それでも、カンボジアの経済は堅調に成長している。2025年のGDP成長率は6.3%と予測されており、都市人口の拡大と若年層の多さが住宅需要を支えている。環境配慮型ビルへの税制優遇など、新たな政策パッケージも打ち出されており、グリーン投資への関心も高まりつつある。
加えて、ASEAN自由貿易圏内での位置づけや、中国との経済連携の強化といった国際的要素も、不動産需要を底上げする要因となっている。例えば中国や韓国、シンガポールからの投資資金が活発に流れ込んでおり、現地の開発プロジェクトに国際資本が関与するケースも増えている。今後、都市機能の向上とともに、サービスレベルや不動産価値の底上げが進むことはほぼ確実だ。
さらに、海外生活を希望する日本人の間でも、カンボジアは「手が届く海外不動産」として再評価されつつある。ビザの取得も比較的容易で、居住コストは日本の半分以下。こうした生活環境の優位性も、投資と実需の両面から注目される理由の一つだ。
“成長の入口”にあるカンボジア不動産市場には、リスクとともに大きなチャンスが眠っている。冷静な目と確かな情報、そして長期的な視野を持つ投資家にとって、今がまさに「入るなら今」のタイミングなのかもしれない。