//JATICの挑戦:日本とカンボジアの未来をつなぐ技術交流視察

JATICの挑戦:日本とカンボジアの未来をつなぐ技術交流視察

まずJATICについて教えてください。
 日本先端技術国際インフラ協力機構(以下、「JATIC」)は、発足間もない財団ですが、日本とカンボジア双方の市場参入を円滑かつ適切にサポートすることを目的としています。
 大企業は豊富な資金力や人材力、独自のリサーチ力、広範なネットワークを持つ一方で、中小企業はそのようなリソースを持たないため、以下の課題に直面し、進出初期段階から大きなビジネスリスクを抱えることがあります。
1 必要な市場情報へのアクセス不足
2 信頼できる現地パートナーの不足
3 公的機関からの十分な支援の欠如
 さらに、情報不足により、一部の企業や経営者が不当な被害を受けるケースもあります。そのため、JATICは、中小企業の海外進出を包括的に支援するため、以下の具体的な取り組みを行っています。
1 現地政府や企業との信頼構築を基盤とした情報提供
2 日本とカンボジア双方の企業をつなぐマッチング機会の提供
3 現地での初期サポートを通じた安心の提供
 このような支援を通じて、日本とカンボジアの技術と需要を結びつけ、両国の経済的および社会的発展に貢献することをJATICの使命としています。

視察が実現した経緯を教えてください。
 長くなりますが、JATICを語る上で重要な部分ですのでお話します。
 今回の視察プロジェクトのきっかけは、在仙台カンボジア王国名誉領事の田井領事との出会いに遡ります。当時、私は東南アジアでの海外進出支援コンサルタントとして活動しており、JICAやJETROを訪問したり、在日本の各領事にも相談したりしていました。しかし、公的機関からの支援が得られず、フラストレーションを感じていた時期でした。そんな中、田井領事に「民間の速度感に合わせた支援が公的機関から得られないため、プロジェクトが停滞してしまう」と率直な意見を述べたことがありましたが、領事はその発言を笑って受け止め、私の意図を汲んでくださいました。この出来事をきっかけに、田井領事との信頼関係が築かれ、継続的な協力関係を構築できました。
 今年の1月に田井領事がHun Manet首相特別補佐官に任命されたことを契機に、日本企業やカンボジアのためにもっと精力的に支援をしたいという思いを聞いた私は、まずカンボジアの課題の一つであるエネルギー分野に着目しました。田井領事の秘書官である渋井Sondabさんと民間航空庁の顧問Prou Saony閣下が、エネルギー省の副長官との会談の場を設けてくださいました。
 副長官からは、「日本の大手企業の提案は魅力的だが、時間がかかりすぎる」という課題が示されました。この指摘を受け、大手企業に比べると提案規模は小さくなるものの、日本の中小企業が持つ革新的な技術を中心とした、迅速かつ実現可能なプロジェクトを提案しました。すると副長官は「その中小企業の技術を直接日本で見に行く」とおっしゃったのです。
 これが今回の視察のきっかけとなりました。
 結局、副長官はスケジュールの都合で参加できませんでしたが、信頼されている優秀な部下の方が代わりにいらっしゃいました。
 前述の渋井Sondab秘書官とRiem Chivit領事秘書官の尽力がなければ、今回の視察は成功しなかったでしょう。この場を借りて両名に感謝申し上げたいと思います。

Mao Havannall大臣の印象を教えてください。
 Mao Havannall大臣は、Hun Sen前首相時代から唯一留任された大臣であり、日本外交の重要な窓口として最適な方だと感じています。
 さらに、大臣をはじめ同行された国務長官の皆様も非常に若く、優秀でありながらフレンドリーだったことに驚かされました。このことは、私自身がカンボジアの政府関係者に対する偏見が無意識にあったんだと気付かされました。
 視察中のエピソードとして、25日に行われたレセプションパーティーがあります。この場では、Prou Sythan顧問兼弁護士とBun Sovann顧問兼弁護士がカンボジア投資に関するプレゼンテーションを行い、日本の参加企業も自社のサービス内容などを紹介しました。その際、最も熱心に耳を傾け、議論していたのはカンボジア側の皆様でした。
 Mao Havannall大臣や国務長官の方々が示された真摯な姿勢は、カンボジア政府全体への印象を大きく向上させる要因となりました。視察を通じて、カンボジア政府の誠実さと日本との協力への熱意を強く感じることができました。

視察において、特に気を遣った点や注意したことは何ですか?
 日本とカンボジアの文化や商習慣の違いによる誤解で悪印象を与えないよう、細かな配慮を心がけました。たとえば、紹介の順番や席次など、些細なことでも丁寧に対応するよう努めました。
 ただ、Mao Havannall大臣に山口県から高知県まで7時間もバスで移動させてしまったのはさすがにまずかったですね。こんなに長時間バスで移動させたのは、我々が初めてだったのではないでしょうか。
 それでも、大臣は我々に気を使わせまいと嫌な顔一つ見せず対応されましたが、相当お疲れになったと思います。

視察先の5社(JET、羽田空港、リアムウィンド、荒川電工、技研製作所)の選定の理由やポイントは?
 それぞれに個別の理由はありますが、カンボジアにとって必要不可欠な技術やサービスを提供しているか、特にエネルギーやインフラ整備といった分野で直接貢献できる企業であるかを重要視しました。
 もちろん他にも多くの候補がありましたし、できることなら全ての会社にご案内したいくらいでした。しかし、視察期間中に対応可能な体制が整っており、効率的に訪問できる九州、中、四国の企業に絞りました。

視察を通じて、どのような手応えを感じましたか?
 視察を終えた直後の11月29日に、Hun Manet首相が2024年から2025年までの10年間にわたる民間と政府間の優先パートナーシップを発表しました。この戦略的目標は以下の3点に重点を置いています。
1 交通と物流(道路と橋の建設、港湾、物流)
2 エネルギー
3 公共部門(きれいな水の供給と廃棄物管理)
これらはいずれも、今回の視察内容と一致しています。プロジェクトがより迅速かつ効果的に推進されていくと確信しています。

視察を終えての感想を教えてください。
視察前、多くの企業がカンボジア進出に対して「期待3:不安7」で、不安が強い印象でした。視察を通じて、Mao Havannall大臣をはじめとするカンボジア使節団の皆様の「何かカンボジアに役立つ技術を見つけたい」という強い意志、真摯な姿勢、協力関係を構築する熱意を直接感じたことで、多くの参加企業の認識が変わりました。その結果、「期待7:不安3」と、不安から期待へと逆転したと感じています。
 もちろん、海外進出には一定のリスクが伴いますが、視察を通じて具体的な可能性が明確になり、企業が一歩を踏み出す自信を得る良い契機となったのではないかと思います。

今回のような視察ツアーをまた組みますか?組むとしたらどのような視察をやりたいですか?
 まだ具体的なことは言えませんが、次の視察プロジェクトがすでに進行中です。特に医療や教育分野に焦点を当てた視察を計画しており、カンボジアの経済課題や社会課題の解決に直結する重要な分野です。
 さらにその先には、農業、漁業などの一次産業における技術革新や効率化、IT特区構想も見据えたAI、半導体、スマートシティ、さらには宇宙開発といった最先端技術の分野における視察も計画しています。

今後のJATICの展開を教えてください。
 カンボジアは現在、近隣諸国と比較して人口規模や経済規模で遅れをとっていますが、GDPの向上と持続可能な社会の両立を実現させることで、カンボジアを世界一住みたい国にしていきたいですね。
 そのため、JATICは両国の経済的、社会的な架け橋としての役割をさらに拡大し、日本の先端技術や文化を持続可能な形でカンボジア社会に浸透させていきます。カンボジアにおいては、日本がこれまでに経験した課題や失敗から得た教訓を共有し、同じ轍を踏むことなく効率的で持続可能な発展を遂げるお手伝いをしたいと考えています。